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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.97)

2006年は「どう実現するか」の段階へ

 年末になるとTRONSHOWがないと年が終わった感じがしないという声をよく聞くようになった。

 今年も2005年の終わりを飾るTRONSHOW2006が12月14日~16日にかけて開催され、その前にTEPS2006が12月10日に開かれた。TEPSは満席、TRONSHOWは過去最大の盛り上がりと最高の集客。世界最大のユビキタス/組込みの非営利団体であるT-Engineフォーラム/トロン協会が行うのに相応しい催しとなった。このように言うと自画自賛と思われるかも知れないが、TRONプロジェクトをまったくのゼロから立ち上げて20年以上続けてきた立場からは、やはり感無量になるものである。

 今回はテーマを「ユビキタス、始動!」としたが、今はユビキタスという概念が重要であることを皆がやっと認識した段階だと思う。何度も言っているように、ユビキタス技術の本格的普及にはまだ10年かかる。インターネットの歴史にたとえれば、まだ一般に解放されたばかりの1992年ぐらいの状態だ。

 2005年10月に出版した『グローバルスタンダードと国家戦略』にも書いたように、まず重要なのは何のためにユビキタスを目指すかだ。私たちが中心に置いているのは、多様な「安全・安心」のために、多様な人々が利用できるオープンな共通基盤づくり。巨大流通業の効率向上という特定目的で、トップダウンに進行しているプロジェクトではない。どちらが良い悪いではない。要は目的に沿ったものを使えば良い。このようなことが多くの人の共通の認識となってきた。何も日本の国家戦略に沿うように「日本独自」をやればよいと言っているわけではない。

 21世紀のキーワードは「多様性」だろう。しかし単なる「多様化」は「均一化」に効率で負ける。「日本独自」にこだわることも同様であり、我々もグローバルスタンダードを否定しているわけではない。TRONプロジェクトの最初から言っているように、多様化し分散しながら、それらがコミュニケーションを取って連携できる「超機能分散システム」になってはじめて均一化や集中化を越えることができるのだ。問題は望ましい多様性を維持しながら、いかに相互運用性を維持するか。どの部分を多様化しどこで標準化するか。その線引きがこれからのアーキテクチャデザインで最も重要になると考えている。

 その意味で我々がユビキタス時代に多様なものをつなぐ手がかりとして標準化しようとしているのがucode。唯一無二の個体識別番号ucodeをモノや場所に付与し、さらにロットや産地やさらには相互関係などの概念的なものにも付与する。そして、それらのucodeが関係ucodeで結び付けられたネットワーク構造のデータとして状況を記述する。そのような多様な状況を記述したucodeネットワークをデータベースに蓄積し、適切な方法で検索をかけることで、その時、その場、その状況、その人にとって最適のサービスや情報を呼び出せるようにするというのが、我々のユビキタスIDアーキテクチャである。

 TRONSHOW2006ではこのucodeの概念を理解してもらうことに注力した。前々回のTRONSHOWがユビキタス・コンピューティングという概念の紹介、前回がその応用の可能性の紹介ということで、いよいよ「では、どうやって実現するの?」ということに対する、我々としての回答を提示したのが今回だったわけだ。

 最近、ユビキタスに触れる多くの方々の文章を読んでいると、数年前に比べ明らかに理解が普及してきたことがわかる。ユビキタスにおける、ユニバーサルやオープンといった望ましい性質をきちんと押さえているからだ。今やコンセプトや応用イメージの理解ということで言うなら、この分野において日本は世界で最も進んでいる国と言っていいだろう。次はいよいよ具体的にどう実現するか。日本においては夢を語る時期は過ぎ、そこに議論が移るべきステップに来ている。そして、その面について具体的な技術的対応策を提案しているのは、唯一我々のucodeを中心とするユビキタスIDアーキテクチャとT-Engineであると自負している。

 何を目指すかということに関する公知という段階を踏んだ2005年が終わり、いよいよ来るべき2006年はこの「どう実現するか」ということについて、我々の技術を広く知っていただけるように活動する所存である。2006年もTRONプロジェクトに対する、より一層のご支援をお願いしたい。

坂村 健