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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.96)

アジア各国とのコミュニケーションの継続

 この原稿は11月1日に台湾で書いている。台湾に来た理由は、IEEE Asian Solid-State Circuits Conference(A-SSCC)2005の初日のPlenary Talkに ご招待をいただいたため。半導体設計に関する学会なのでいささか畑違いだか、講演では、半導体設計をしている人たちに、21世紀のアプリケーションとはどのようなものか、その代表的なものがユビキタス・コンピューティングであるという話をしてきた。 最近の半導体設計はSOC(System On Chip)などますますアプリケーションオリエンテッドになっており、未来のコンピュータ応用をいち早く知り設計にフィードバックすることが必須になっているとのことで、私を呼んだとのことだった。 今、講演を終えたばかりだが、幸いなことに発表後の反応も良くご期待に沿えたようだ。

 A-SSCCの委員をやっておられる東京大学の浅田邦博先生によるとIEEEには、半導体関連のフルサポートのコンファレンスは4つしかないという。 その代表が、毎年サンフランシスコで開催されているIEEE International Solid-State Circuits Conference (ISSCC)であるが、 そのアジア版として今年からA-SSCCが開催されるようになったということで、半導体におけるアジアの隆盛を反映しているとのこと。主催者はISSCCと同じくIEEE Solid-State Society。

 ところで、このコンファレンス発表の5割近くは台湾からのもの。日本からは全体の2割ぐらい。韓国は日本より少し少ないくらい。関係者に聞いたところ、これは日本からの発表としてはごく普通の件数。この会議は初回のわりには採択の競争率が約3倍と高かったが日本勢の採択率は2/3に近かったとのことで、決して見劣りするわけではない。台湾の力の入れようが尋常でないために、押されているように見えるようだ。

Universityなど台湾の大学が非常にアクティブに論文を出しているためで、これは台湾政府が補助して学会発表を強力に援助しているからという。といっても、単に今年の開催地だからというような近視眼的なことではない。 内にこもらないで技術を外部に発表し他とコミュニケーションをとることが技術プレゼンスを示すためにも欠かせないという戦略で、政府が、IEEEの学会をはじめとしたさまざまな国際的場で研究発表を行うことを奨励し援助しているのだ。

 実は台湾勢の採択率は低く1/3ぐらいで、それでいて採択が5割近くに上ったのだから、いかに多くの投稿を行ったかがわかる。発表を重視するという政策は国家戦略としてもなかなかだと思った。台湾が半導体開発力――特にLSI設計力をつけることを国策とし、LSI設計の講座を国立大学に新設したことが着実に影響している印象を持った。実は台湾の前には上海にいた。 近ごろ、日中関係は政治的には必ずしも良好でないが、技術的には交流を続行すべきだと私も思うし、中国側もそう考えている。中国ではT-Engineが広まり始めており、火を絶やさないためにも出かけるしかないということで中国に行ってきたのだ。

 中国では10月末に中国でのRFID技術や施策について話し合う3rd Asia Smart Label (RFID) Conference and 1st uID Technical Forum ― Shanghai 2005

 電波行政の担当の方の講演では、中国は周波数に関しては900MHz帯を携帯電話が使っているために、UHF帯タグに米国と同じような広帯域を割り当てることは不可能というコメントがあり、技術的問題点の分析もきちんと行われていることがわかった。また私たちの進めているucodeについて「コードに意味は持たせずに、ネットワークを前提にucodeという識別子によりモノや場所を区別する」ことの意義もやっと理解されてきたようだ。

 これからはucodeを中国でどう使っていくかが重要で、中国で実証実験計画も進んでおり、2006年には中国で利用されるucodeの実例が続々と報告されることになりそうだ。今回その現場の視察も行ってきた。

 またT-Engineについては、北京大学での講座ができてしばらくたつが、このたび、上海の復旦大学でも講座がスタートしてT-Engineのソフトウェア開発する人たちが増えてくる。T-Engine/T-Kernelを使った開発が進んでおり、その成果が続々と出てくることが期待される。アジアにおいて、すべての面で仲良くするのは過去の歴史もあり難しいが、それでも各国とコミュニケーションを絶やさないことが重要であるし、その糸口として科学技術が有効であることを再確認した旅であった。

 さて、日本に帰ったらすぐ韓国に飛んでユビキタス関係の大きな会議。そこで基調講演をするための準備を上海や台湾のホテルで行っていると、まさにアジアでの盛り上がりを実感させられる。

坂村 健