プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.95)
- ユビキタス社会に向けたアプローチに対する自信
-
2000年前後に、低価格の新しいタイプのRFIDが現れたり、ネットワークの常時接続があたりまえになったりなど、総体的なICT(Information and
Communication
Technology)環境は大きく進歩した。これにより、ユビキタス・コンピューティングやパーヴェイシヴ・コンピューティングなどが現実性を帯び、世界的にも大きな話題になってきた。ここ数年、世界的に注目を浴びるようなプロモーションを私たちが活発に行ったこともこの状況に寄与していると自負しているが、その状況も一巡しそろそろ実用化に対しての方策が話題になり始めている。また、国際標準の覇権の争いも活発化し始めている。
-
現在、実用的システムを目指して、要素技術からシステム技術まで開発が進んでいる。ユビキタス・コミュニケータも私たちのところで4年前にすでに開発し実験にいろいろ使ってきたものだが、やっとというべきか、そろそろ似たようなものも出始める状況になってきている。
-
ひと言でまとめるのは難しいが、実験を繰り返して明らかになってきたことは、ユビキタス・コンピューティングは応用範囲が非常に広く、さまざまな用途に利用できるということだ。完結した単線的な新技術というより、多様な要素技術を組み合わせるロボットのようなシステム化技術の分野としてとらえるほうがいい。
-
一部の米国好きの日本人にとっては気になる存在のEPCglobalは、ひと言で言えば目的をウォルマートなどの物流一本に絞って周波数はUHFの900MHz帯のみに一本化し、DOD(米国防総省)に採用してもらうために、EPC
Generation2をISO
18000-Part6Cとして国際標準に持っていこうとしている。小さな薬びんなどに付けたり、水分の多いものに対しては900MHzだけでは不十分であるが、用途を思いきって絞り込んで特化してしまったわけだ。
技術もオートIDセンターのころと違って先進性はねらわず、バーコードなどで確立された一時代前のレガシーな技術に徹している。非常に限られた応用に極めて大量の需要がまとめて存在するのならこれはこれであり得るアプローチだろう。
-
しかし日本を含め、世界的に見るならば、ウォルマートやDODのようなビッグ・ジャイアント・ユーザーが存在する国のほうが珍しい。そのため、我々は、あらゆる応用に使える汎用性を重視したユビキタス・コンピューティング基盤を確立することをねらっている。RFIDチップも用途に応じて、さまざまのチップを使えるように考えている。13.56MHzも2.45GHzも、もちろん900MHz帯も使えるし、パッシブだけでなくアクティブタグも使う。
リーダライタは認定した複数のチップに対応できるマルチプロトコル型にするなどのアプローチを取る。
-
さまざまな問題を解決するためにはトータルシステムとしての設計が重要である。単に、モノにタグを貼って、それを高出力リーダライタで読めばすべておしまいというわけではない。比較的長い距離を読み取れるEPC規格のタグでも、実験によると通常の利用状況では読み取り率は60%に落ちて実用にならない。これを解決するためには、アンテナ/リーダライタを複数設けたり、読み取りを繰り返すといったシステム的なアプローチが不可欠になってくるだろう。
-
チップの中にコードを全部入れてしまうかも判断の分かれ目となる。EPCglobalのアプローチは、今や用途別に規定されたコードそのままを全部入れてしまう。これに対して、我々のアプローチは、ucodeというユニークネスが保証された識別番号を入れて区別するが、番号自体に意味は与えないというのをポリシーとしている。そのためコンテンツについては――よく使うものはローカル保持するなどテクニックは使うものの――識別番号をキーにネットワーク接続で取得するのを基本動作としている。
-
数多くの実証実験を最重要とする。実証実験を繰り返し行うことにより、実社会に大量導入した場合のさまざまな問題点を洗い出し、それに対応し必要な準備を行おうとしている。技術でできることは技術で、技術でカバーしきれないところは運用で――そのために必要な、セキュリティポリシーや、さらには法規なども整備しなければならない。
このように推進組織によるアプローチの違いが明確化されてきたわけだ。狭い範囲では別として、世の中一般におけるユビキタス・コンピューティング化において必要とされるのは、どちらのアプローチであるか。
それがここ数年で明らかになってくるだろう。私たち、ユビキタスIDセンター、T-Engineフォーラムは、望ましい未来をつくるため、私たちの考え方をさらに推し進めるために、ここで述べたような方針に従い、総括的な実験を繰り返し、ユビキタス・コンピューティング社会の将来を築こうとしている。これまでの数年間の蓄積で、ユビキタス基盤の実現については強い自信と確信を持つに至った。「ユビキタスが実用になるのは10年後」と繰り返し述べてきたが、少し早まりそうな予感も芽生えてきた。
坂村 健
|