プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.87)
- TRONプロジェクト20周年、海外への進出
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TRONプロジェクトが今最も力を入れているユビキタス・コンピューティングの中核的技術であるユビキタスIDメカニズムに世界中の関心が集まっている。ユビキタス・コンピューティングの基本的な考え方は、現実の空間を認識して状況の判断、つまりコンテクスト・アウェアネス(Context
Awareness)。
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モノの認識、ヒトの認識、空間や環境の認識。その中でもモノの認識への関心が早期の実用化を目指して、世界的に高まっている。いろいろなモノにRFIDのチップタグを付ける。用途によってはバーコードでもかまわない。RFIDはまだ問題も多いが、うまく動作した場合は利点も多い。すべてのモノを一意に認識することにより情報を得たり、モノの管理を行うことが効率的に行える。
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最近わかってきたことは、米国では流通過程で商品の紛失が多いため、サプライチェーンマネージメントと呼ばれる管理に使うのが主目的であるということ。しかし日本やアジア地区では、従業員やお客を常時監視するという性悪説的なセンスは好まれず、主眼点は、私のプロジェクトで主張しているように、食料品の安全安心情報や医薬品の誤投与を防ぐ情報など、エンドユーザーに対して有用な情報を出すことに集まる。T-Engineフォーラム内のユビキタスIDセンターが進めている方式に対して関心が高まるのはこのような理由による。
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アジア諸国からの関心は特に高い。ここのところ矢つぎばやにアジアの国々と提携が結ばれている。まず、韓国RFID協会とは2月に訪韓した際の合意をもとに3月に代表団が来日して、「RFID国際協力に関する業務提携覚書」を交わした。韓国RFID協会は、日本の総務省、経済産業省、文部科学省のような官公庁、サムソン電子やSKテレコムなどを代表とする民間企業、それから大学などが共同で作っているRFID技術を振興する機関であり、私たちのユビキタスID技術を広め、韓国にユビキタスIDセンターを設立して実証実験を進めていくという提携が3月に結ばれたのである。
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また4月には訪中して、政府機関の中国科学院とユビキタス・コンピューティング技術に関する基本契約を結び、中国で最大の指導的立場にあるコンピュータ研究所である中国科学院傘下の計算技術研究所との間で契約が結ばれ、その中にTRONユビキタス技術オープンプラットフォーム研究室を作り、オープンなT-Engine技術、ユビキタス技術の移植とローカライズを行い、また中国ユビキタスIDセンターの設立を前提としてのユビキタスID技術の共同研究開発を行うことになった。
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昨年、シンガポールにTEADEC(T-Engineアプリケーション開発センター)を設立したことも含めるとアジアでの拠点が3ヶ所となったわけだ。そのほか、北京大学との間では私がこのほど客員教授に就任し、人材教育も重要視して、北京大学内でT-EngineやユビキタスID技術についての教育も行うという提携も結んだ。シンガポールのナンヤン技術大学とあわせて教育機関の具体的な話が2つになり、単に開発研究所やユビキタスIDセンターを設置するだけでなく、それを運営維持していくために、各国においての人材教育も始まったわけである。TRONプロジェクトを始めて今年で20年にあたるが、これからは海外に積極的に進出していこうと思っている。このような背景のもとアジア地区に開発センターができたことをたいへん喜ばしく思っている。
坂村 健
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