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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.85)

ユビキタス・コンピューティング環境に向けて進む技術開発

 昨年の12月11日から3日間東京国際フォーラムで開催されたTRONSHOW2004は実に15回目。今回はかってないほどの大きな会場で、出展は39社と最大規模となった。テーマは「ユビキタス、TRONに出会う」。ユビキタス・コンピューティング元年の2003年を締めくくるのにふさわしい催しであった。各種マスコミで紹介され、JR有楽町駅前という交通の便の良さもあって、最終日の土曜日まで会場の混雑が続くほど多数の方々にいらしていただいた。金曜日の夕方には小泉首相も来場され、動けないほどの人がつめかけた。そして、昨年末T-Engineフォーラムは、予想どおり会員が300社を突破するまでになった。

 さて、そのT-Engineで最も力を入れているのが、ソフトウェア開発効率向上のため、ミドルウェアを多く流通させることであり、そのためにさまざまな準備を進めてきた。T-Engine上のリアルタイムOS核――T-Kernelは、μITRONがベースになっているが、T-Kernelでは応用ソフトウェアやミドルウェアの互換性を維持するためにソースプログラムを完全にシングルソースにし、私たちの公開する方式、T-Licenseに基づいて、ロイヤリティフリーで誰が使ってもよいということにした。本誌が発売されるころには、世界中で公開が始まっているはずである。

 また、T-Distという電子流通システムも発表した。T-Engineに組み込まれているeTRONを使うことにより、オフラインでもマイクロペイメント(少額課金)が可能になる機能を提供する。たとえば、お試しで最初の5回の使用はタダとか、累積でいくら以上使うと割引になるなど、きめ細かい課金ができる。

 ミドルウェア流通の基盤の整備と並行して、ミドルウェアを増やすことにも力を入れてきた。主要ミドルウェアを提供している世界的なソフトウェア会社にT-Engineフォーラムに入会していただいた。昨年3月に、組込みLinux最大手のモンタビスタ ソフトウェアがT-Kernelのタスクの1つとして動くT-Linuxを提供して行くと発表し、9月にはマイクロソフトがT-Engineフォーラムに加入し、T-Engine上でWindowsCE .NETを動作させる環境の提供を約束した。T-Kernelから見ればこれらの情報処理系のゲストOSは、いわば巨大なミドルウェアとも言える。

 このように情報処理系OSが、T-Engine上に集まってくる背景には――TRONSHOW2004での講演でモンタビスタのCEOのジム・レディ氏も言っていたことだが――ITRONと組込みLinuxのような情報処理系OSではタスクディスパッチ時間でマイクロ秒とミリ秒というように1000倍違うという性能差がある。そのため高度なハードリアルタイム処理の場合には優秀なリアルタイム核とくっつかなければならない。そのときに、T-Kernelは最適のものだ。そしてマイクロソフト副社長の古川氏も――また他の講演でバルマーCEOも――Windows CEはT-Kernelと結びつくことにより最高のパフォーマンスを得ると述べている。

 一方、サン・マイクロシステムズはT-Engineフォーラムと共同でT-Kernel上にJavaの実行環境を載せるという発表を昨年12月10日に行った。これは単なる実装ではなく文字コードとしてTRONコードをサポートしている。またオラクルは、12月1日にT-Kernel向けにデータベースOracle Liteを提供することを発表した。ほかにもマクロメディアはFlashを提供し、ピクセルテクノロジーはピクセルブラウザを、というように世界の主要ベンダーのミドルウェアがT-Kernel上に載るようになってきた。

 T-Kernel上のミドルウェアは現在でも100以上あるが、2004年には最低でも300、できれば500個を突破させたい。これはあながち夢ではない。2年足らずのうちにT-Kernelは世界で最強のオープンな組込みソフトウェアプラットフォームとなり、それを運営するT-Engineフォーラムは、会員数から言っても世界最大の影響力を持つ組込みオープンプラットフォームの団体になったからである。

 そして、ユビキタス・コンピューティング技術でも、TRONSHOW直前にYRPユビキタス・ネットワーキング研究所が光学式とRFIDどちらからでもucodeという私たちが決めた個体識別のためのコードの読み取りが可能なPHS端末UC-Phoneを発表し多くの反響があった。RFIDが社会に広く浸透するまでには光学式バーコードとの併用が技術的にもコスト的にも望ましい。さらに、2004年に1月から野菜にICタグをつけて生産段階からの履歴を追跡する本格的実証実験の一般販売フェーズも始まった。

 TRONプロジェクト20年目を迎え、我々の目指すユビキタス・コンピューティング社会を築く技術開発は着々と進んでいる。2004年もTRONプロジェクトへのご支援をよろしくお願いする次第である。

坂村 健