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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.82)

ユビキタス・コンピューティング環境を保証するための電子タグの認定

 T-EngineフォーラムおよびユビキタスIDセンターは2003年6月23日に全世界向けに記者会見を行い、ユビキタス・コンピューティング環境で利用する超小型チップならびに電子タグの認定を、ユビキタスIDセンターが行ったと発表した。この発表は我々が目指すユビキタス・コンピューティング環境構築への第一歩として非常に重要である。今回認定されたチップは当ユビキタスIDセンターが規定したチップ内データフォーマットを持ち、製造時にセンターが規定する規約によって初期化されており、さらに標準のポーリング手段でアクセス開始できるということを保証する。規定は現在9つのレベルがあり、一番下のレベル(Class 0)はバーコードであり、最上位レベル(Class 8)はサーバ。その間にはRFIDと呼ばれる電子タグ(Class 1、2)、スマートカードに相当するスマートタグ(Class 3、4)、自ら発電機構を持つアクティブタグ(Class 5、6)を含み、非常に広範囲のデバイスを規定している。

 今回認定されたのは、日立製作所の「ミューチップ」、凸版印刷の「T-Junction」、ルネサステクノロジの「eTRON/16-AE45X」の3つであり、前2者は、読み出し専用タグであるClass 1に属し、AE45Xは、CPUコアや暗号回路などを集積したスマートタグ「Class 4」に対応する。

 認定がなぜ重要なのか。それは、ユビキタス・コンピューティング環境におけるノードがすべて認定規定にのっとって作られていることにより、タグの情報はユビキタス・コミュニケータという標準の読み取り機で読まれ、さらにサーバに送られてアドレスを求めるアドレスリゾリューションを行い、そこから得られたアドレスからチップの中に入っている番号に相当するコンテンツが得られる――以上のような動作がシステム全体にわたって保証されるからである。

 おそらく、このような認定は世界で初めてであろう。もともとT-Engineプロジェクトは、単一ベンダーでなく、基準を満たしていれば、多様な世界のメーカーの製品を受け入れている。だから認定は、異なったハードウェアベンダーが提供するチップを混在させて使うのに非常に重要であると思っている。

 最近、ユビキタスIDセンターの周辺がたいへん慌ただしくなっており、その一端はマスメディアでも報じられている。ただ、いくつかの問題がある。日本ではISOが定めた規定に従って主にスマートカード用(電子タグ兼用)に13.56MHz、電子タグ用に2.45GHzが割り当てられている。米国では電子タグ用に915MHz帯が使われているため、たとえばMITのオートIDセンターが推す915MHz帯規格との主導権争いが報じられる。だが、これは私たちにはあまり意味がある指摘と思われない。単に利用する周波数で主導権を争っているというのは電子タグの事情を理解していない人々の言うことである。電池を持たないパッシブチップではISOが定めている電子タグの周波数は10波以上あり、周波数は使用目的や付ける対象、到達可能距離、あるいは水や金属といった電磁波に影響を及ぼす要素により決まるものである。単に915MHzか2.45GHzかといった単純な争いはあまり意味がない。各国には、電波法があり、歴史的経緯やさまざまなローカルな事情もありすべてを同一にすることにあまり意味があると思っていない。それよりは、そのような各国の違いを積極的に克服する技術開発にもっと目を向けるべきだ。私たちは、13.56MHz、900MHz帯、2.45GHzの3バンドを読み取れるユビキタス・コミュニケータの試作も終わっており、チップのほうも今回認定された凸版印刷のT-Junctionは915MHzから2.45GHzまでの幅広い周波数帯に反応するRFIDチップである。技術の発達により、周波数に関する各国のローカルな違いは吸収できるのであり、何が何でも世界単一規格にこだわることはあまり意味のあることでないことを強調しておきたい。

 さて早いもので、T-Engineフォーラムの会員企業は2003年6月末の時点で、200社を突破した。今年度末には300社に達することはまず間違いないであろう。我々は、ユビキタス・コンピューティング環境のインフラとなるオープンなテクノロジーを世界に発信し続ける覚悟である。今後、非常に成長するであろうユビキタス・コンピューティング市場に対して、私たちのオープンアーキテクチャに基づく技術が大きな貢献をして、イニシアティブをとれることを望んでいる。

坂村 健