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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.80)

RFIDは皆で切り開く新しい技術

 RFID(Radio Frequency Identification)タグは、このところ急激に注目を集めているが、1948年には論文が発表されており、 1960年代、70年代に開発が進み、本格的な実用化も20年以上前から始まった歴史のある技術である。しかし、普及のために、時間がかかった。それが、21世紀になって本格的普及しようとしている。なぜか。技術の進歩により安定的に小型に作れるようになった。さまざまなモノに付けたときの特性が蓄積され、RFIDタグが不得意な金属などにも付けられるようになった。標準規格としてISOで規定されるようになってきた。リーダ/ライタ技術の発展などの進歩。などさまざまの理由があげられる。しかし何といっても最大の理由はタグのコストが大幅に下がり、大きさも最小では0.3mm~0.4mm角と極めて小さくなり、さらにタグに付けるアンテナもフレキシブルで超小型なものが生まれるなどして、適用の範囲が急激に広がったことが大きい。

 ユーロ紙幣や愛知万博の入場券にRFIDを埋め込んで偽造を防ぐなどという、従来は考えられなかった応用が生まれている。流通分野では、さまざまな業界で商品に付けて、商品の在庫や流通情報を把握しようという試みが始まっている。業界ごとにバラバラに行っていたのでは、RFIDタグの利点が生かせないので、標準仕様をどう作るか、さらに低コストタグはまだ記憶容量が限られているため、RFIDタグの持つ情報をもとに例えばインターネットにどうつなぐか、ネットワーク上のデータベースから目的とするデータをどのようにして引き出すかといったシステムとしてRFIDを考える視点が重要になってきた。

 標準化に対しても名乗りを上げるところが出てきている。マスコミで盛んに報道されているが、T-EngineグループもユビキタスIDセンターをすでに立ち上げた。MITを中心にした米国のAuto IDセンターも日本に支部を作るなど主導権争いしているような報道も見られるようになった。しかし、私たちもAuto IDセンターも知り合い同士、戦う気はない。Auto IDセンターのエグゼクティブ・ディレクター、ケビン・アシュトンは日経コンピュータ2月24日号のインタビューで「坂村教授も我々も目指す方向は同じであり、しかもその実現には多くの作業が必要になります。その意味で、坂村教授の研究と我々の研究は互いに補完し合うものだと考えています」と答えている。私も同じ考えである。標準化を目指しているのは、この2つばかりでなく、商品コード標準化組織のEAN-UCCもGTAG(Global Tag)という規格を推し進めている。

 RFIDは安くなったといっても、あらゆるモノに付けるにはまだコスト高で、さらなる開発が求められている。RFIDタグのIDの標準化はまだまだ技術や規格に関する研究開発が必要で、切磋琢磨しなければならない時期である。これからのユビキタス社会の健全な発展を促すために、さまざまな実験が行われるべきだと思っている。

ルが崩壊して以来、元気がなかった情報通信分野で、「ユビキタス技術やRFIDはインターネット以上に夢のある基幹技術」と注目するのはわかるが、どうもマスコミには誤解が多いようだ。RFIDの発展およびユビキタス・コンピュータの発展のために良い意味での技術競争が必要だが、争いとしておもしろおかしく書き連ねるのは残念であるし、当事者同士はそうでないことを知ってほしい。今は戦うよりも時代に合う新しい技術を皆で切り開いていくことこそが重要である。

坂村 健