プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.75)
- ユビキタス・コンピューティングのためのインフラ技術を
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ユビキタス・コンピューティングが本格的にブームになってきた。新しいプロジェクトを始めるとき、日本人はとかく英語の名前をつけようとする。もちろん見た目や響きが良いからだ。それと同じような意味で米国人の場合はラテン語を使うのだろう。ユビキタス・コンピューティングの名づけ親であるXerox PARCのMarc
Weiser(故人)は、ラテン語を語源とする「(神は)同時に至る所に存在する」を意味する“Ubiquitous”という言葉を使った。コンピュータが「あらゆる場所にある=遍在」を表すのに、単に“Everywhere
Computing”というよりも確かに気がきいている。日本人にとってラテン語も英語も大して変わらないが、多くの日本人には考えつかない。ユビキタスは、聞きなれない言葉なのでかえって広まってしまった。そもそも、ユビキタス・コンピューティングと同意である「どこでもコンピュータ」は1980年代にTRONプロジェクトが使い出した言葉である。実生活空間にコンピュータが多数ばらまかれて協調動作するという発想もXerox
PARCのUbiquitous Computingよりずっと早かった。それが、技術が成熟した今になって流行し始めている。
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ユビキタス・コンピューティングは、日本だけでなく世界的ブームになってきている。米国はもちろんのことEUでもプロジェクトが始まっている。どうも、現在のコンピュータサイエンス界では、研究予算を獲得するのにユビキタスやパーベイシブというキーワードを入れておくと、予算が取りやすいようだ。たとえあまり関係のない研究であっても、である。まるで、一時のインターネットブームのようだ。
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ユビキタス・コンピューティングは、生活環境全体にくまなくコンピュータが入り込む世界である。今と違い、コンピュータの存在を意識しなくてすむ世界でもある。EffortlessでCalmな技術を目指している。プライバシーもセキュリティも重要である。もちろんそう一朝一夕にはやってこない。明日にも「ユビキタス社会」(何を言いたいのかわからない言葉だが)がやってくると思わせる報道もある。例えば、「家電製品をすべてIPv6対応にして、インターネットに常時接続すればユビキタスが実現」。ううーん、何か違うのでは。ユビキタス・コンピューティングに必要なのはIP、つまりインターネットプロトコルではなくてもっとリアルタイム性の強い実時間指向のプロトコルである。
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このような背景から、産学共同で新しい研究所を設け、ユビキタス・コンピューティングのためのインフラ技術を5年間かけて開発することになった。どのような技術を開発していくかはゆくゆく紹介したい。これから始まる新しい動きに注目してほしい。
坂村 健
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