PMCロゴ
top フェアのご案内/編集長挨拶 20年を振り返る 表紙ギャラリー アンケート Special Contents HOME

 Special Contents


プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.67)

紙に代わるユビキタスなメディアを目指して

 紙は、紀元前2世紀ごろ中国で生まれ、長い間秘密にされ、年月を経てアラビアから12世紀にヨーロッパへ伝わったと言われる。ルネサンス期には印刷機が生まれ、多くの人に知識を伝える主要メディアとして今日に至っている。この21世紀には、利便性や環境への配慮から紙メディアを電子メディアに置き換える動きが加速するだろう。電子メディアなら変更は即時で、ネットワークの存在を前提とするなら複製、配付は容易でしかも非常に低コストである。今までは問題であった表示技術も画期的な進歩が予想され、紙への印刷技術に限りなく近づいて行くだろう。

 だが、紙というメディアにはもうひとつの用途がある。例えば、証明書や伝票、契約書、株券、紙幣などを電子メディアに置き換えようとすると非常な困難を伴う。紙に精密印刷されたものは、それだけでも「複製を作るのが困難」であるが、紙も含めた完全な複製はできない。書き込みは自由だが、修正しても痕跡が残る。穴を開けたり、切り離したりすれば元に戻すことはできない。また処分しないかぎり、モノ=実体として存在し続ける。紙幣や契約書などは信頼性の維持に紙の持つ性質をうまく利用しているのがわかる。ところが電子商取引は、紙という実体を省いて、ネットワークで送ることのできる電子データで取引のすべてがすむのが理想である。

 そこでこのような用途で使われる紙を電子に置き換えることを考え、ネットワークを通して「光速」で移動(譲渡)でき、かつ紙の持つ特性も含む、電子的な実体(entity)を経済(economy)のために実現するアーキテクチャeTRONを構築することにした。この電子の実体は紙の契約書などと同等の働きを持たせるために項目ごとに「1回のみ書込み可能」「書換え不能」「書込み可能」というようなアクセス許可/制限を設けることが可能でなければならない。高度のセキュリティの確保のためにはeTRON専用LSIの開発を予定している。eTRONはこれにより電子ブックのためのセキュリティ機構にもなり、汎用的な電子商取引のためのセキュリティ基盤となりうる。そのため、電子チケットやサービスに対する電子課金、ポイントサービスやマイレージサービスといった用途にも利用できる。eTRONの実現により、大げさなハードウェアなしに、現在は実用できない多くの電子商取引のビジネスモデルを安全にかつ効率良く実現できると考える。

 1990年代後半に盛り上がったECのブームは、インターネット企業の株価暴落もあって、淘汰が進み、現在はひと段落している。電子マネーも大きく騒がれたのに、ほとんど実用にできなかった。それにはさまざまな原因が考えられるが、技術が未熟であったこと、人々がインターネット上の活動に不慣れであったことも大きい。経済の行き先が不透明な今、eTRONの開発により多くの人々に新たなビジネスチャンスを提供できると考える。

坂村 健