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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.62)

メディアは何を伝えるか?

 インターネットの普及は、個人が「情報を得る」ことに対してまさに画期的な手段を提供する。特にWWWの出現は、Webページ記述言語のHTMLが簡単でわかりやすいことも手伝って情報発信をしたい人々にかっこうの手段を提供している。1991年にインターネットの商用利用が解禁され、CERNのTim Berners-LeeらがWWWのコンセプトを公表し、1993年にUniversity of Illinoisの学生らにより実用的なWWWブラウザ「Mosaic」が開発されてから爆発的な普及をみることになった。インターネットの統計を発表しているHobbes' Internet Timelineによると1993年末にはWWWサイトの数は623しかなかったのが、1999年末には956万サイトにもなったという。

 インターネットはすでにテレビや雑誌と並んだメディアのひとつとして認知されることとなったが、それに比例していいかげんでインチキな情報もあふれるようになってきた。何がインチキでいいかげんかを正しく見抜く目を養うことはますます重要になりつつある。昨年末の2000年問題騒ぎでわかったように、いいかげんで根拠のない情報が、インターネットはもちろん、新聞、雑誌やテレビで大量に流された。人々にY2Kという問題が存在することを警告を鳴らすのはよいのだが、それにより「世界が破滅する」ように言い立てたり、「日常生活が送れなくなるから大量の備蓄が必須」などと人々を脅かしたり、「コンピュータ屋に理解できないヘンな理屈のY2Kバグ」を指摘したりするY2K問題専門家と称する人々が登場した。

 インターネットに限らず、何が正しく何がおかしいか情報の品質確認が今求められている。Windows2000の発売日には日本でのみ(こんなことやっているのは日本でだけである!)Windows95や98と同様に大手ショップで午前0時に発売が開始された。この発売の様子についてメディアがどのように伝えたかはかっこうの材料である。もちろんWindows2000がよいOSかそうでないかはまったく関係ない。2月17日の夜中から18日に変わる瞬間に秋葉原や新宿で何が起こってメディアがどう伝えたかだけに絞ろう。

 私のスタッフは秋葉原に飛んだ。新宿にもいた。携帯電話をつなぎっぱなしにして、リアルタイムで刻々と情報を伝えてもらい、Webや新聞の情報と比べてみた。午前0時前には、主要パソコン店のまわりには関係者やマスコミと思われる人々がびっしりで数百人の規模。そのわりにお客さんがほとんどいない。最大手の店でも行列は数十人がせいぜい。何しろ関係者は見ているだけだからすぐわかる。一歩店から外れるとそこは真っ暗。いろいろ回ってみて一番行列が長かったのはプレイステーション2が抽選で当たるとした店で200人ほど並んでいた。それでも20分で行列はなくなり、30分も過ぎたら閉店する店もあった。現場にいる方の感覚をひと言でいうと、大盛況というより、まさに閑散であった。

 いったいこれをWebや新聞がどう伝えるのかと見ていたら、Webは個人のやっているところはだいたい正直。大手のパソコン関係のニュースを伝えるWebサイトは「午前0時からプレイステーション2の予約販売をするサイトがアクセスが殺到してパンク」というニュースばかりを伝えていた。Windows2000の販売のニュースが現れるまでにけっこう時間がかかり、「すぐ行列がなくなった」とか「報道や関係者と客のどちらが多かったか」とかマトモに伝えていたところと、通りいっぺんに「たいへん盛況だった」とクローズアップ写真を添えて報じたところに分かれた。驚いたのは翌朝の新聞。カラー写真を1面に使って、盛況だったと伝える新聞もあれば、社会面に大きな写真を配した新聞もあった。「予約はWindows95/98に比べて1/10」と伝えている新聞もあったが、「700人が行列をなした」と書いた新聞もあった。秋葉原全体で並んだ人を全部足せばそれくらいなるかもしれないが。書き方が巧みなため、一見するとそう思ってしまうが、現場の状況と検証してみるとマイクロソフトに好意的な視点が目立った。なぜ、日本の大マスコミはマイクロソフトになぜここまで好意的なのだろう! 意識的にそうしているのか勝ち馬に乗る体質が強いからか。あまり考えないで記事を書いているのか?

 一方、米国はというと専門誌は発売直前に「Windows2000に63,000のバグ」というような情報を流し、一般紙のWebサイトは「Windows2000を買わないほうがいい10の理由」、「Windows2000の市場に暗雲」というような独自の視点が目立った。発売記念イベントは報じても、しばらくは導入を控える向きが大半だとも伝えた。強いモノは強いと言うが、だからこそ悪いところもちゃんと指摘するアメリカのマスコミ。ここで何度も言うようにWindows2000が売れる、売れないは別にどうでもよい。メディアの伝え方が事実にどれほど近づいているか、読者に誤解を与えない報道がこの日本でどのようになされているかに興味があるのだ。新聞、雑誌、テレビ、そしてインターネットから送りだされる情報が正しいかどうか、1つの例を通して、評価し常に見ている必要があると感じる。

坂村 健