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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.60)

 今年1年もまた終わろうとしている。TRONプロジェクトを始めてから20年近くたってしまった。TRONWAREも本号でVOL.60となり10周年を迎えた。毎年、12月にTRONSHOWやTRONシンポジウムを開催して1年を締めくくることにしている。ここ数年はスケジュールの都合で12月に開けないことがあったが、今年は久しぶりに12月をTRONSHOWやシンポジウムで締めくくることができるようになった。今年1年を振り返ってみると、いろいろな意味で長期コンピュータプロジェクトとして定着してきたと言えよう。定常的に成果が上げられるようになってきたのではないかと思っている。今年はTRONプロジェクトから単発でない多くの成果が出たと思う。ひとつひとつをここで触れることはできないので全体的な傾向を述べる。

 まずITRONをはじめとしてTRONを応用しているメーカーは、パソコンではなく組込みの製品であり、あくまで製品そのものが重要なので従来は採用したOSには触れないのが一般的だった。飛行機でも自動車でもどんなエンジンが積まれているか、普通は誰も気にしない。だが最近は事情が変わってきてその製品とは直接関係ないのにもかかわらずTRONを使っていることを言及してくださる企業が増えておりたいへん感謝している。実はITRONは全世界で大変な量が使われている。日常生活において、複写機から空調機、カーナビ、エンジン制御、デジタルカメラ、携帯電話などなどさまざまな機器で採用されている。最近はITRONの利用を公開するのはきちんとしたOSを使っているという信頼性の表明と考えていただける方々が増えてきたことは大きな進歩である。これはTRONの利用が着実に広がっていることを示している。今年、多くの企業が製品とは関係なしにTRONを採用していることを公開され、TRONプロジェクトの普及に貢献してくださったことを感謝したい。

 2番目に、定着したオペレーティングシステムのほかに、地道な努力が続いていたBTRONも久しぶりに大きなホームランが出たことが強く印象に残っている。「超漢字」という13万文字を搭載したBTRON OSがやっと現れた。基本的な構造やメカニズムに関しては今から10年以上前から言ってきているが、フォントの作成ひとつをとっても大変であり、さらに漢字検索のための辞書作りも大変な手間である。このような整備活動と並んで、大規模文字セットを持つ今昔文字鏡などが積極的に協力してくださるようになった。大規模文字セットを提供してくださった方々にも感謝したい。大規模文字セットの基本的なプラットフォームとしてBTRONを認めようという機運が出てきたことは、たいへんうれしい。

 そして、イネーブルウェア活動については続けること自体が力である。今年のTRONイネーブルウェアシンポジウムは情報機器のための障害者デザインがテーマである。今回は障害者デザインの世界的権威である英国国立盲人協会チーフサイエンティストのDr. John Gillを招き、特別講演をお願いした。来たるべき21世紀の社会におけるインフラストラクチャはどうあるべきか、手を結んで協力してお互いに来たるべき21世紀の電脳未来を話し合うことになった。協力していただいた英国大使館にも感謝したい。TRONプロジェクトに対しては一部で「日の丸」とか「島国的」というように意図的に誤解させるようにして妨害している向きがあるが、さまざまな文化を持つ世界の人々に貢献する電子インフラストラクチャを提供することがTRONプロジェクトの目的である。まもなく21世紀を迎えるこの時期に、TRONプロジェクトは大きな成果が出て明るい未来が待ち受けている。単に私企業の利益を極大にしようという狭い目的のためだけでなく、人間はどうあるべきか、社会はどうあるべきか、世界の人類のための努力を続けていきたい。

坂村 健