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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.59)

 前ソウル大学校行政大学大学院教授の李雄根(Woong-Keun Lee)博士が韓国で我が国の文化勲章に相当する賞を受賞した。李博士の業績の中の重要なものに「朝鮮王朝實録」の電子メディア化がある。「朝鮮王朝實録」は太祖から哲宗に至る朝鮮の25代 472年、17万2千余日の歴史的出来事をありのままに記した世界最大の歴史書である。これは大変な分量で漢文の原文は1893巻、漢字数が5千3百余万字に至るという。この編纂には3千人が関わったというが、朝鮮500年間の風俗、制度、社会、経済、自然、科学、歴史、文化、陰陽、地理、音楽、宗教、思想、外交、兵法、軍事、特産、海洋、気象などすべてのものが掲載されている朝鮮民俗の文化の宝庫であり、韓国学研究の基礎となる資料であるということだ。

 このような貴重な資料が紙のままであったのでは1900巻近くあり、研究のためにはどうしようもなく、李博士が電子メディア化をおやりになったわけだが、そのためには多くの漢字が必要とされた。韓国は現在、ハングル文字を主として使っているが、「朝鮮王朝實録」は歴史的な文献なので数多くの漢字が使われている。具体的にはKS標準漢字といわれている4888字以外に12479字を追加して合わせて17367字が使われている。

 TRONプロジェクトでは、早くから我が国だけでなく、韓国や中国などでも非常に多くの漢字が必要とされていること、しかもその漢字というのはJISやUnicodeの域をはるかに超えたもので、国により原点ルーツが異なるためそれぞれの国の漢字を正しく取り扱えることが必要であると主張してきた。我が国だけでなく、ハングルを中心として使っている韓国でもこのように歴史的な文献では漢字が必要とされる。さらに韓国では最近は漢字見直し運動が起こっており、一時は漢字の使用をまったくやめようという雰囲気だったのに、再び漢字教育に対して国全体として動き出している事実もある。このような状況のため、韓国ではBTRONに対して多大な興味が持たれるようになってきた。李博士の作られたものでも17367字の漢字が使われており、漢字をあまり使わない韓国ですら17000字、今主流となっているパーソナルコンピュータの体系で扱える漢字をはるかに超えた漢字数が必要とされている。以前から進めてきた多国語体系がやっと努力が実を結び、いよいよ実用に期するようになってきた。当然であるが「朝鮮王朝實録」という韓国の漢字とハングルで書かれているものに対して、日本語の解説を加えようとした場合には、さらなる多数の漢字が必要とされるマルチリンガル環境が求められる。

 TRONプロジェクトでは現在、李博士とは密接な関係で共同研究を進めているが、私たちのTRONが提供する多漢字をサポートする多国語環境が近隣の諸国の文化や歴史的研究にも役に立つことを祈っている。

坂村 健