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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.56)

 TRONプロジェクトは公式には1984年に始まったので今年で15周年になった。15年の間には成功もあればうまくいかなかったこともある。が、まだ続行中のプロジェクトのひとつの区切りであるので、反省すべき点は反省し、続行すべきものはさらに続けるべきときとなった。15年たった今、強く感じるのは、コンピュータのプロジェクトで一番大事なことは、長く続けることだと痛感する。

 コンピュータのデザインを長くやってきて思うのだが、コンピュータをゼロからたたき上げるとき、完成度を上げるには時間がかかる。10万ステップもあってバグがないプログラムはない。良いものに作り上げるまでに最低10年、やり直して20年、3度目の正直で30年かかる。

 現にUNIXは1969年生まれだからちょうど30年たっている。1970年代にコンパクトなミニコン用OSで1回目のブーム、80年代にネットワーク機能を組み込んだバークレー版が生まれてインターネットのインフラになり、1990年代には権利関係に触れない形での書き直しの動きが生まれて、その1つがLinuxとなった。

 TRONはまだ15年だから折返し点に来たくらいである。長期のプロジェクトには紆余曲折があり、長い間にはひどい目に遭うこともある。UNIXでさえ、今は安定度の高いサーバーOSの定番になっているが当初は大型計算機をやっている人々からは、「現場ではこんなOS、使えない」と長い間オモチャOS扱いされていた。TRONプロジェクトもいろいろなことがあり、快く思わない勢力の妨害にも遭い、米国商務省のスーパー301条騒ぎにも巻き込まれた。これだけひどい目に遭ったため、友人のアメリカ人に言わせれば、

「歴史に残り、世界普及する条件はすべて揃った! Ken、おめでとう(Congratulation)!」

となる。

 TRONに関係したビジネスで新しい事業を起こす人たちも増えてきており、世の中全体の流れがオープンアーキテクチャに合わせて動き出した。21世紀も間近でTRONにとって状況はどんどん良くなっている。スーパー301条のときにはこれからどうなるのかと思ったこともあったが、今は完全に立ち直った。OSの完成度が高まったこともある。15年前からおおもとの思想を大きく変えることなく、TRONのアーキテクチャ、デザインに時代が追いついてきたと言えよう。21世紀が近づくにつれ、リアルデザインの完成度をよりいっそうの努力で高める仕事に意欲を燃やしている。

坂村 健