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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.55)

 先日、フランスのオープンLinux協会(AFUL,l'Association Francopho-ne des Utilisateurs de Linux et des logiciels libres)でTRONについてスピーチをしてきた。フランスの状況をまず紹介しよう。現在、ヨーロッパではUNIX系のオープンアーキテクチャのOSであるLinuxが著しく普及している。Linux自体がフィンランド生まれということもあるが、商業オペレーティングシステムが高価であるのにサポートが良くなかったりバグが多いのに対する不信感に根差している。製品が不安定なわりに価格が高い。それでも情報が公開されていれば自分で解析することもできるが、ブラックボックス化されていると不安や不満が募る。その点UNIXは昔からオープンであった。それにソースが公開されているLinuxならフリーのOSであってもサポートは大丈夫という安心感がある。

 このような理由でLinuxというオープンアーキテクチャに対する人気は高まる一方である。冗談でなくUNIXに関してはヨーロッパではLinuxで統一する意気込みだ。ところでこのような運動に最も影響を受けているのはWindows NTだと思う。オープン Linux協会は、LinuxはWindows NTと競合しており、いかにLinuxのほうが優れたOSであるか大キャンペーンを張っていた。また驚いたことにLinuxを信頼性が求められる銀行や通信分野など、今まで使われていなかった応用までに使っていこうという運動が進行している。フランス政府も大きな関心を持っている。

 Linuxとはターゲットレンジが異なるが、やはりオープンなアーキテクチャとして TRONに対する興味も高い。仕様はオープンだし、ソースは開発した人がOKなら公開されている。現にITRONがそうだ。TRONに対しても熱心な質疑応答が行われた。IEEE Computer Societyから出版した“μITRON3.0”が海外におけるTRONプロジェクトのプロモーションに役に立っているようだ。

 ところで21世紀のコンピュータの覇権を誰が取るのか。それを占う上でオープンアーキテクチャというキーワードの重要性は揺るぎないものとなっている。オープン化はただ中身が公開されていればいいというのでなく、互換性のためには標準化が重要なのである。それも規則はできるだけ緩やかにして最低限の規則を決めていく弱い標準化が重要となっていこう。

 Linuxとは本来はカーネル部のみを指すのだが、Linuxカーネルを利用したオペレーティングシステム全体をLinuxと呼ぶことが一般化している。Linuxの話題もコンピュータ雑誌だけでなく、ビジネス雑誌や一般誌でも散見されるようになってきた。これだけ多くの人が使うようになるとカーネルだけでなく、周辺の細かい仕様をどう決めるかが問題になってくる。デバイスドライバとかOSの電源投入/切断のユーザーインタフェースなど、OSの専門家から見ればそれこそどうでも良いところが、良くなくなるのである。これが21世紀が20世紀と異なる点だと思う。21世紀には肝心な部分は見えなくなり、どうでも良いところまで標準化しなければならなくなる。その集積が公共的なコンピュータのインフラストラクチャとなるのだ。

坂村 健