PMCロゴ
top フェアのご案内/編集長挨拶 20年を振り返る 表紙ギャラリー アンケート Special Contents HOME

 Special Contents


プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.53)

 新しいBTRONのインプリメントであるB-right/Vの評判がいい。広い層から新たにBTRONを試してみたいという声を聞く。たいへん結構なことだ。BTRONに対する最近の関心の高まりは多数の漢字を取り扱えるという重要性が認識されてきたということもあろう。今のB-right/Vでは2万字ほどの漢字(JIS補助漢字、中国語GBコード簡体字、韓国語KSコード)を扱うことができる。そして年末には6万4000字のGT明朝までサポートされる。

 確かに扱える文字数が多いことをひとつのきっかけとしてBTRONに興味を持たれた方は多い。これはうれしいことである。だが実際に使ってBTRONの本質的な考え方に興味を持ってくださる方のお話を聞くのはもっと楽しい。「BTRONらしい」、すなわちBTRONが他のオペレーティングシステムと異なっているところ。そのひとつにファイルシステムが一般的なツリー構造でなく実身/仮身モデルという独特なハイパーテキスト構造を持っているということがある。

 考え方を理解していただくには実際に使っていただくのが一番だ。Windowsにどっぷり漬かっていると、違和感から、わからないという反応を示すこともある。ファイルシステムはツリー構造になっていて、ディレクトリ(フォルダ)があるとか、今いるのと別の子ディレクトリに行くにはおおもとの親ディレクトリまで行かないとたどり着くことができないとかというような常識(?)が理解を邪魔する。つまり頭がWindows的な思考になっているのである。

 ちょっと考え方を変えてほしい。実身/仮身モデルというのは人間の思考に合った自然な考え方から生まれたものだ。今のコンピュータのほとんどが持っているツリー構造のほうこそ自然ではない。人間の頭の中にある考えや概念は親ディレクトリから子ディレクトリ、孫ディレクトリへと階層構造をもって整然と整理ができているわけではない。ある概念はいろいろなところに出てきて、いくつもの概念と関係がある。例えば、「赤」から思いつく言葉にはリンゴ、消防車、借金などさまざまであり、親子関係はわからないけれど関係があるというようなものを扱うのに実身/仮身モデルはきわめて有効である。また実身は1台のコンピュータの中でWWWのURLアドレスで表せるページ、仮身はWWWのリンクと同じように考えていただければわかりやすいかもしれない。思いついたアイデアを際限なく関係づけるのに非常に強力な道具になる。

 BTRONの愛好者の方々から実身/仮身モデルをどのように利用したらよいかというアイディアが出ているが、興味深いものも多い。毎日の日記をBTRONで漠然とつけていき、その中の項目をまた仮身にして関係をつけていくという作業をするだけでも非常に変わったハイパー日記ができる。アイディアをまとめるときのアイディアプロセッサにもなる。現在、他のコンピュータを使っている人には敷居が高いかもしれないが、いったん理解すると新しい世界が開かれてくるという話を利用者の方から聞いて私はたいへん力づけられる。皆さんもBTRONの新たな応用を見つけてぜひ私にも教えていただきたい。

 BTRONは漢字がたくさん使えるというほかに、実身/仮身モデルを持ち、また一方では人間工学の成果を元にエルゴノミクスキーボードも作っていたなど、いつもトータルな考え方でシステムを開発してきた。最近、「はじめはWindowsとBTRONパーティションを分けてインストールしていたが、そのうちBTRONだけにしてしまった」というようなうれしい話が増えてきた。年末にかけてBTRON、さらに改良も加えられ、話題が目白押しである。本号に付属しているB-right/V体験版をお手持ちのDOS/V互換パソコンで試していただきたい。BTRONというちょっと違った古くて新しい考え方を持つオペレーティングシステムを皆さんのコンピュータでも動かして、思考を助ける BTRONの世界をぜひ体験していただきたい。

坂村 健