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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.50)

 早いものでTRONWAREが創刊50号になった。1990年の始めに創刊されてから実に8年以上。感激ひとしおである。TRONプロジェクトは当初から独自のコンピュータアーキテクチャを目指しており、マイクロプロセッサやオペレーティングシステムをゼロから開発することが目標のひとつであった。今現在、不思議なことに日本は電子立国だ、世界第2位のコンピュータマーケットだというわりには、コンピュータ技術に関して独自な匂いがまったくしない。ほとんどが輸入技術である。日本勢で独自に汎用的なシステムで戦うのは私たちぐらいになってしまった。創刊のころにはまだ国家プロジェクトとしても独自にコンピュータを開発するプロジェクト、人工知能開発を目指した第五世代コンピュータ計画やUNIXをベースとしてソフトウェア開発生産性の向上を目指したシグマ計画が存在していた。そして気がついてみると懐かしの国家プロジェクトは皆終わっている。継続してやり続けているのは我々のTRONプロジェクト。寂しいというか複雑な気持ちである。

 日本はアプリケーションに関してはマアマアであろう。しかし基幹的なOSやマイクロプロセッサに関しては断然弱い。もちろんすべての要素が独自である必要はないが、あて馬だったとしても、始めからレースに参加できないのは情けないではないか。競争の結果選ばれないのならわかるが、戦わずしてやめてしまい、イニシアティブとは無縁の位置にいるように思える。相撲で言えば不戦敗である。昔のコンピュータは独自アーキテクチャがあたりまえだったので、私が感傷に浸っているのではないかと思われるかもしれないが、今のパソコン業界を見ていると何と言ったらよいか。心をときめかせるセンスオブワンダーのかけらもないものばかりである。スターウォーズで言えば帝王ダースベーダーの支配下にある世界である。誰が悪いのか?いろいろあるだろうが結論的に言えば、私は特定の人が悪いのでなく、競争をなくしてしまった皆が悪いのだと思う。感傷は置いておいても、ビデオ規格で言えばVHS対βマックスの戦いのように健全なる競争をやりたい!

 今年はトロン協会10周年でもあり、TRONWAREは50号、TRONプロジェクトももうすぐ15年になろうとしている。節目の年であるともいえ、世の中では独自アーキテクチャの必要性が再認識されようとしている。これからも良い意味での他と戦えるシステムを送り出していきたいと思う。もちろん過去いろいろなことがあった。うまくいっていないこともたくさんある。もっともっと努力する必要がある。しかしTRONプロジェクトを理解してくださる方が最近とみに増えているのはプロジェクトリーダーとしてうれしい。プロジェクトを継続していくことは重要であり、多くの人のご理解を得て健全なる戦いを続けていきたい。今後も多くの方の協賛をお願いする次第である。

坂村 健