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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.45)

 BTRONはデバイスとして電子ペンを使うことを前提として設計されたオペレーティングシステムである。現在BTRONは1B/V3という名でOADG仕様準拠のDOS/Vパーソナルコンピュータで動いているが、必ずしもすべてのBTRONに電子ペンがつながっているわけではない。現在電子ペンでしか動かないのはMCUBEという専用マシンである。マウスを使ってBTRONを操作した場合、電子ペンで操作した場合と比べて操作性に違いがあることに気がついた方もおられるに違いない。BTRONは電子ペンを想定して作られているためにマウスでは違和感があることはどうしても避けられなかった。最近PDAにBTRONが載った電房具TiPOが登場したが、このマシンにはタッチペンが付属し、マウスはない。ここにようやくペンで操作するOSの真価が発揮できるようになってきたと言えよう。ポインティング操作と絵を描く操作が同じペンで自然に行える。特に携帯型機器ではマウスは考えにくい。あえて使うとすれば空中で振り回す3次元マウスあたりだが携帯用には少し大がかりである。電子メールで受け取った情報にちょっとしたメモをつけて送り返すという場合、マウスではどうにもならないし、キーボードを使う気にもならない 。このようなときペンは非常に快適である。

 ペンは私が昔から好きなインタフェースであるが、電房具TiPOを使い始めてその便利さを実感している。筆記用具がペンの形をしているのはなるほどと改めて思う。小さな部分や狭い領域でも十分使える。デジタイザと液晶ディスプレイが一体化しており視差も目立たず、直接操作(Direct Manipulation)で指したいオブジェクトがズバリ指せる。

 未来形インタフェースのキーワードのひとつとして「見えているモノには触れることができる」がある。グラフィカルユーザーインタフェースを象徴するキーワード「WYSIWYG」(What You See Is What You Get:画面で見ているそのままがプリントされる)よりも未来的な「WYSIWYT」(What You See Is What You Touch:見たものが触れるもの)により近づいたわけだ。今のところWindows95にしてもMacOSにしてもインタフェースはマウスをベースとしたオペレーティングシステムであり、ペンをベースとしたものではない。TRONは携帯型でも卓上型でもペンをベースとしており、今後手書き文字認識技術の発達など周辺要素技術の進歩により、ペンを主体としたヒューマンマシンインタフェースを持つオペレーティングシステムがよりいっそう重要性を帯びてくるような気がする。

 BTRONを最初に提案したときに電子ペンは非常に高いものであって、ペンインタフェースはそうポピュラーではなかった。ペンインタフェースを最初にベースとしたOSではあったが、電子ペンが高価であったためマウスを使わざるをえず、インタフェース仕様もそれを意識したものだった。今後BTRONのヒューマンインタフェース仕様は完全にペンインタフェースになるだろう。新しいBTRON3――次の世代のTRONも、よりいっそう電子ペンを強く意識したヒューマンインタフェースに設計していくつもりでいる。

坂村 健