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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.44)

 私たちのTRONプロジェクトでは「我が国におけるコンピュータは基本的な機能としてあらゆる漢字が使えなければならない」ということをプロジェクト開始時から主張してきた。特にインターネットが私たちの社会生活にとって重要な通信インフラになることが明らかになってきた現在、日本人として最低水準である「漢字を含む日本文がきちんと送れるか」ということがコンピュータの持つべき機能として必須条件になるのは疑いのないことだ。

 これに対して現在我が国の状況は極めて悪く、いわゆる標準規格であるJIS漢字は第1、第2水準(JISX0208)合わせて1万字にも満たない6355字しかない。足りないということで制定されたJIS補助漢字(JISX0212)の5801字を加えてもほとんど(1Bを除いて)使われていない。新たに第3水準、第4水準が制定されるらしいが、合わせて5000字程度らしく根本的解決にはならない。さらにJISは悪名高きUnicodeをベースとしたISO10646-1という、漢字を使う諸国にとっては非常に問題の多い国際規格の文字コードをそのままJISX0221として採用するのみで、これから先のビジョンが示せないでいる。

 Unicodeは米国のコンピュータならびにソフトウェアメーカーの提案であり、全世界の文字コードを16ビットに納めるために字種の多い漢字に対してユニフィケ-ションという中国と韓国と日本の漢字の中で見た目が似たものを1つにして数を減らすという非常識な方法を用いている。ISO10646-1、JISX221も無条件にユニフィケーションが採用されている。

 このように漢字を使う日本人にとって文字コードというインフラが最悪の事態になろうとしているのを我々TRONプロジェクトは日本のコンピュータ界に対して繰り返し警告を発し続けてきた。我々は警告ばかりでなく具体的に解決の方法としてTRONコードという体系を提案し、TRONにおける多国語コンピュータのメカニズムを発表するなど、何が問題で何をしなければならないかについても発信し続けてきた。

 最近、我々の発言についていくつかの反応が出始めている。それも悪い方向でなく、良い方向である。漢字のコード問題はコンピュータを専門にしない人に対してなかなか通じなかった。あまりに非常識なことが常識のように行われていること、議論を枝葉末節に持っていき、本質を外す人たちが良からぬことを考えるのでなかなか理解されなかった。にもかかわらず根本的におかしいものはおかしいということがいろいろなところで話題になり始めてきた。一般的な新聞のコンピュータと関係ないペ-ジでも現在の文字コードには問題があると話題になり始めた。例えば朝日新聞1996年9月19日、読売新聞1996 年11月1日夕刊、毎日新聞1997 年2月14日夕刊である。日本文藝家協会、日本軽印刷協会、東京大学文学部、個別には今の状態はおかしいと思っていた人々の意見が集約されて多くの人々の共通意見となり、一部の人がおかしいという世論になりかかろうとしている。だがUnicode陣営は現在のコンピュータのマーケットの大半を握っており、これからの新製品にもUnicodeが採用される可能性は高く予断は許さない。これに対し今までの小さな動きが世の中の大きな運動になる芽が出てきたところが最近の動きである。

 長年この主張を続けてきた私たちはさらに大きな運動になるようにできるかぎり努力しており、現在の規格がおかしいとなったときその代替となるTRONの漢字コードの扱い方ならびにBTRONへの実装をより強化して1997年度末には現在扱っている漢字を倍増するという具体的行動を行う予定である。関心をお持ちのTRONWAREの読者の方々は我々の活動に参加され、現在まだまだ小さな芽がより大きな運動になるように「現在のコンピュータでは表示されない漢字がある」という問題意識をできるかぎり多くの方に広めていただくように切にお願いする次第である。

坂村 健