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プロジェクトリーダーから(TRONWARE VOL.43)

 毎年の恒例となっているトロンプロジェクト国際シンポジウム、TRONSHOW'96 、TEPS'96と、TRONプロジェクトの1年間の総決算とこれからの道を示す重要な国際会議が併設の展示会とともに、昨年の12月の初めに無事終了した。展示会の2 日目は、風速30m/秒ともいわれるハリケーンに似た悪天候であったにもかかわらず、積極的にプロモーションを行ったためか去年を上回る多くの方に来ていただき、たいへん盛り上がりを見せた展示会と国際会議であった。最終日のTEPS'96 は、招待講演を引き受けていただいたカリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CSUN) 障害者センター(Center On Disabilities)所長のハリー・J ・マーフィー(Harry J. Murphy)教授にも会議の最後まで出席していただき、たいへん有意義な討論が展開された。

 さて例年だとこの会議が終わると暮れも押し迫って、この原稿を書いている時点で今年も終わったということになるのだが、今年はそうはいかない。本誌が書店に並んだころ、1 月21日から2月いっぱいまで東京大学総合研究博物館では「冬季特別展 デジタルミュージアム―電脳博物館 博物館の未来―」が開催されている。この大規模な展示会の準備を私が中心となって進めているから休めないのである。このデジタルミュージアム展はコンピュータを駆使して文化的、科学的な資料を長く保存するデジタルアーカイブの技術と博物館の展示を見に来ていただいた人々に対しての展示をサポートする技術の集大成である。普通デジタルミュージアムというとネットワーク上で公開される博物館の実体がないバーチャルミュージアムをイメージする方も多いかと思うが、東京大学総合研究博物館では今までに集められた貴重な学術資料の実物をより効果的に見せるということにも力を注いでいる。ちなみに東大にはなんと600万点近くの学術資料がある。デジタルミュージアムの構築哲学のひとつは「誰にでも開かれたオープンミュージアム」。本誌VOL.40でも特集したので覚えておられる方もいるかもしれないが、まさに開かれたミュージアムのためにコンピュータを駆使してオープンな展示スペースを提供する試みである。

 古い書物をデジタル化していく場合にどうしても多くの漢字がコンピュータに入力できることが必要で、TRONプロジェクトで以前から主張している「すべての漢字をコンピュータの中へ」の技術が重要となる。展示では漢字のルーツである甲骨文字や金文という歴史的な展示から始め、漢字の変遷を見せコンピュータ時代へとつなげていく。随所でTRONコンピュータが利用されている。歴代東大総長の脳コレクションやメソポタミア文明時代の壷もある。我々の研究室で開発したマルチメディアなMUD(Multi-User Dungeon)端末があり、バーチャルとリアル映像を組み合わせた不思議な仮想現実空間に入っていける。展示は新しい知的エンターテイメントとしても楽しめるように留意した。2月28日まで開かれている。

 関心のある方はぜひ東京大学総合研究博物館に来ていただきたい。URLアドレスは http://www.um.u-tokyo.ac.jp/。地図も入っている。

坂村 健