今回、小津監督の名コンビ、名キャメラマンであった厚田雄春氏のご遺族から東京大学に寄贈された、貴重な未公開の資料をベースにして、わが国にある、小津監督関係のほぼすべての資料を集めた展示会を開けることは喜びにたえない。これは、小津映画の研究者にとってもファンにとっても貴重な機会である。
また、今回の展示会ではデジタルミュージアム特別展として、デジタル技術を資料の整理や展示手法として使うというだけでなく、小津監督の作品の修復にも利用し、現在のデジタル修復技術の成果をお見せすることとした。
古い映画のデジタル修復は、人類の遺産の保存のための技術として現在注目を集めている分野であるが、予算の問題などで必要な処理が行えないのが現状である。木造建築における「古び」はそれなりの歴史であり良さもあるが、再生が命の映画においての「古び」は監督の意図するものを伝える能力をメディアが失うという悲劇以外のなにものでもない。デジタル修復さらにはデジタル保存というデジタル技術により、この悲劇を完全に過去の物にすることが可能となった。
小津の初期の作品もそうであるが、多くの映画が種々の理由により失われてしまった。この中にはもちろん紛失や焼失によりなくなってしまったものもあるが、光学フィルムの経年変化により失われつつあるものは、今ならば、まだ救えるのである。そして、このようなものが数多く存在する。今回の展示会の目的は、大量の資料をもとに小津映画の秘密を探ることであるが、同時にこのデジタル修復技術自体にも注目していただきたいと思う。この特別展をきっかけとしてこの技術分野に注目があつまり、多くの失われつつある映画が、この恩恵を受けられれば望外の喜びである。
関係各位のご協力によりこれらの大量の資料が展示できる運びとなったことを感謝するとともに、本展示によって多くの方々に古い映画の魅力を再発見していただければ、それらのご協力にいくぶんなりともお返しができると考えている。
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